ゆらめく憂鬱

もったりクリームみたいな

未だに一滴も涙が出ない話

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こんばんは。4限に間に合わないゆらめきちゃんです。

 最後の夜

「俺が君に本気になったから…俺が全部悪い」

彼女持ちの、わたしの好きな男の子は、泣きながらわたしにこう言った。彼女がいるのは完全に隠されていたので、ショックで言葉が出なかった。頭が痺れた。頬の筋肉がガッチガチに固まって、表情が変えられない。聞いた瞬間の衝撃もすごかったけど、あとから追いかけてくる背筋の震えがさらに怖かった。夜の黒い海に落とされたみたいだった。あの感じは、たぶん一生忘れられない。

 

ああそっか。他に女いたんだ。やっと腑に落ちた。だから付き合おうって話にならなかったのね。OK。

 

涙なんて、未だに一滴も出てこない。けど、残酷な高揚感があったのはよく覚えている。“わたしは彼女持ちの男を本気にさせてしまった”
結局わたしは選ばれなかったんだから、側から見れば完全に負け。でも、顔も名前も知らない女の子から、一瞬でも彼氏の気持ちまで寝取った事実は、どうしようもなく気持ちよかった。向こうが女遊びに向いていない性格で、ぼろぼろ泣き始めたのも非常に気分がよかった。何度でも言うけど、わたし、一滴も泣いてない。何であんたが泣いてんの。バッカみたい。

 

恥ずかしいけど、彼女がいるなんて、夢にも思わなかった。全然分からなかった。わたし、かなり敏感で、勘が鋭いほうなのに。自分の中のセンサーがおかしくなっちゃうくらい、彼のことが好きだったんだと思う。彼は天才肌だったけど、素直で純朴で、なんていうか、少年だった。自己肯定感高めで、スポーツマンで、お勉強ができて、明るくて快活で、ガチエリートコース。ああ、もっと単純な人だと思ってた。全然違うじゃん。色々知ったつもりでいたんだけど、わたしに隠し事があるのと同じで、向こうもでっかい秘密持ってたんだね。男の子って難しいな。                                                    

      

彼は週5で部活してて、バイトも掛け持ちしてて、大学とおうちも遠くて、単純に忙しい人だった。のはずなんだけど、とにかくわたしに時間を割いてくれた。週1回か2回、「声が聞きたい」って、電話くれて、ラインの返信もマメだった。夜だけ会いに来るんじゃなくて、電話だったから、最初は何がしたいのか謎すぎて困惑した。寝たいだけなら夜だけ来なよ。中途半端だな。

 

書いてて思ったけど、すぐに白黒つけたがる、グレーゾーンを許せない気質がわたしにはあるらしい。0か100かでしかこなせない完璧主義はうつ病になりやすく、とっても生きづらい。一見すごい人に見えるけど、ただの思考停止。0か100かの2択だったら、考えなくていいもんね。何事も中庸をとって、うまく生きていける人、自分と折り合いをつけていける人が1番すごいよ。自分と喧嘩してばっかりな自分が嫌になる。

 

最後の夜にネタバラシしてもらったら、彼女には電話なんてしてないらしいよ。本当か嘘かわかんないけどね。時間的にそこまで余裕ないと思うから、本当だと信じておく。あーーいい気分だね。

 

わたしのために泣いてくれたのも彼だった。詳しい理由は忘れたけど、わたしがつらくて号泣したとき、なぜかベッドの上で一緒に泣いてくれた。2人でわんわん泣いてるのがおかしくて、笑えてきちゃったのを覚えてる。彼のそういう綺麗な素直さが大好きだった。

 ぎゅっ

お水が飲みたくて、ベッドを抜け出して冷蔵庫を開けた。そしたらその時、後ろからぎゅってされたんだよね。「好き」って、小さく囁きながら。寝てたはずなのに、ベッドから出て、追いかけてきたみたい。

後ろからのハグって、本物だと思う。

正面からのハグは、身体の構造上、顔も見えるし、相手も自分を抱いてくれる。抱き締めているようで、抱き締め返されに行ってる。つまり、無意識だとしても、見返りを求めているのと同じだ。けど、後ろからは違う。顔も見えないし、相手は自分を抱き締め返せない。見返りを求められない。「くっつきたいからくっつきに行く」って、純粋な好意なんじゃないか。

 

「俺さ、本気で君のこと好きだったんだよ。あんまり口に出せなかったけどさ…」

また顔を歪めて、ぽろぽろ泣きながら言葉を絞り出している。だからなんでオメーが泣くんだよ。あんたがわたしのこと好きなのなんて知ってたよ。冷蔵庫の前でぎゅってされた時が、決定的だった。全部ダダ漏れだったよ。

 

最初の夜から君はずっとそうだった。「もう俺以外とこういうことしないで」「また会える?」「ワンナイトばっかりのやんちゃな子かと思った」失礼だな!でもその必死さが気持ちよかったよ。


自分の価値を他者からの評価で測ると、いつまでも幸せになれないらしい。でもさ、わたしはずっと他人から「選ばれる側」の人間だったんだ。「選んでもらえなかった」ことがあんまりないから、プライドが凝り固まってしまったみたい。自分がある程度「選んだ」相手から、「君が好きだよ」なんて求められるのが気持ちよくてしょうがない。

もうね、なんとなく、そろそろ終わりだって、予感がしていた。だから会う約束したときに、「いつもよりかっこよくしてきてね」なんて一言追加した。とびきり強い女になりたかったから、とっておきのカラーマスカラをつけた。まつ毛が赤とか青の女、男ウケ最悪のはずなのに、君はちゃんと気づいてほめてくれたよね。

 

さよなら、間違いなく人生で1番好きだったよ。

 

涙は未だに出てこない。泣けない女は、泣きながらまだ話し続けてる君に「飽きた」なんて一言浴びせて、振り向きもしないで帰った。我ながらかっこよかったと思う。

 

 

このドラマが繰り広げられた2週間後、わたしはエリートチャラリーマンのベッドの上で「もう俺以外とこういうことしないで」と告白を受けているのだけれど、それはまた別の話。

 

おしまい