ゆらめく憂鬱

もったりクリームみたいな

手が出せない話

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こんばんは。性の乱れは心の乱れ、ゆらめきちゃんです。

 店長

店長が好きだ。背が高くて、細マッチョで、ちょっと色が黒くて、歯並びが綺麗。黒髪の短髪で、ワックスで立てるとそれはそれはキマる。目がぱっちりで鼻筋も通ってて、でもうるさいほど顔が濃いわけでも無くて、ソース顔としょうゆ顔のちょうど中間くらい。気さくで優しくて、よく気がつく。でも口下手で、笑顔がとにかく可愛い。

 

つまり、わたしのタイプど真ん中。

こんなにかっこいいのに、みんなからいじられるポジションにいる意味がわからない。

未婚どころかもう3年も彼女がいないのは、もっと意味がわからない。

 

店長が異動して来て、わたしの働く店舗の店長になったのが半年前。わたしはバイトを始めて半年ほどで、やっとお店や仕事に馴染めて来た頃だった。前の店長のことがまあまあ好きだったから、次はどんな人が来るのか、不安でしょうがなかった。

「32歳のベテラン社員が来るよ。」と聞いていたのに。

半年前、初めてシフトがかぶったあの日、わたしの前には、“32歳のおじさん”ではなく、“どタイプのお兄さん”がいた。

 

当時は(割と今も)とにかく人が足りなくて、3人で回していた1階のホールを、2人で回さなくてはいけない日が続いていた。機嫌で仕事をする、苦手な先輩が2階を担当する風潮があり、わたしは必然的に1階担当になっていた。店長がお会計やお客様のご案内をこなし、わたしがホールを見る。わたしはまだまだ力不足で、フォローしてもらってばかりだった。

 

店長はとにかく仕事ができた。よく通る声で的確に指示をくれて、お店は上手く回る。店舗の備品の見直しにも気を配ってくれる人で、店長が変わってからお店は見違えるほど綺麗になったし、働きやすくもなった。

 

これは女としての本能だと思うのだけれど、仕事ができない男の子は、全く異性として意識できない。ひどいことを言うけど、この世で1番子宮に響かない男の子は、「仕事のできない男」なんじゃないのか。

 

その点店長は完璧だ。間違いなくこのお店で1番仕事ができる。なのに気取ったところがなくて、さりげなく褒めるといつも全力で謙遜してくる。可愛い。

 

いつだったか、営業後のお店で開いたバイト飲み会で、初めて店長が酔っ払っているところを見た。わたしもお酒が入って大胆になってしまって、店長のタバコを一本拝借した。マルボロの12ミリ。強すぎる。吸えたもんじゃない。店長のトマッピーを横からストローで飲んだ覚えもある。店長の味がした。それは嘘だ。でも、トマトのリキュールが好きになったのは本当。

 

酔いが覚めた後、わたしにできるのはここまでだな、となんとなくわかった。会社としてもアルバイトと社員の恋愛を禁止しているし、仕事と恋愛を絡めるのは、わたしのポリシーに反する。安定して稼げる職場を失いたくないし、失うまではいかなくても、仕事がしづらくなるのって、ダサい。何より、好きな人のキャリアの邪魔になることが分かり切っていた。好きな人の邪魔になる女には絶対になりたくない。

 

恋愛下手なわたしにとって、これは大きな進歩だった。好きな人ができると何も手につかなくなってしまう。ラインの返信で一喜一憂、SNSはどこまでもネトスト、すぐスクショ。アタックしては、毎日反省会。自分の感情に振り回される、典型的な恋愛体質。なのに、店長に関しては、全くのめり込まなかった。のめり込めなかった。

 

自分の中で、感情にしっかり線引きができた。「この人は、手を出しちゃいけない人だ。」と、理屈で自分を納得させることができた。「店長となら、一晩寝ちゃいたいなあ。」なんて、仲のいい社員さんに冗談も言えた。本当に好きだったら、こんなこと言えないんだと思う。たぶん。

 

これが大人になるってことなんじゃないか。と同時に気づいた。経験上、「一度寝てしまったら、この均衡は崩れる」。

 

最後に店長の一番好きなポイントをお伝えしたい。ありがたいことに、わたしのバイト先は繁盛していて、週末はご予約のないお客様をお断りしなくてはならないことが多い。「ご予約なしのお客様、2名です。」わたしが店長に伝えると、店長は席情報をiPadで確認してくれる。席が空いていればそのままご案内できるが、今日は厳しそう。この瞬間。お断りしなくてはいけない時、店長はわたしの目をまっすぐ見て、にっこり微笑んでくる。「入れないな」と、笑顔で伝えてくる。たくさんお客様が来てくれて嬉しいような、でもご案内できなくて悲しいような、ちょっと複雑な笑顔。一回りも年上なのに、少年みたいな切なさがあって、うまく言えないけど、本当に絶品。彼がわたしに微笑んでくるあの瞬間、確実に、世界は少し止まっているはず。

 

ひどい失恋をした時、ふざけて店長に相談した。「聞いてくださいよ〜、わたし、浮気相手だったんです〜。」

 

そのあと、「今夜一杯おごってください。」なんて言わなくてよかった。

 

きっと、あの可愛くて切ない、最強の笑顔で、わたしもお断りされちゃう。

 

おしまい